「痔」って何?
痔疾患は国民病ともいわれているくらい、多くの人が悩まされている病気です。痔は肛門の病気だけに「恥ずかしい」「見られたくない」といった意識を持つ人も多く、出血や痛み等の症状があっても放置して我慢したり、適当に処理をして済ませている人が多いようです。ただ、次第に進行して非常に苦痛で不快なものとなり、手術しなければならなくなる場合があります。痔疾患についても早期発見・早期治療が大切です。
それでは、「痔」の四大疾患呼ばれている内痔核外痔核裂肛痔瘻及び直腸脱肛門掻痒症の治療について説明しましょう。

内痔核とは?-内痔核の成因
1)varix(静脈瘤)が原因の場合
長期間の座位、排便時のいきみの習慣、便秘・下痢による肛門部への負担、冷え、アルコール・刺激物(唐辛子・ワサビなど)の常用などの原因によって肛門内の奥にある肛門粘膜下の静脈が、長い間の血流うっ滞により静脈瘤(コブ)を作り、元にもどらなくなった状態を言います。
2)loose cusionが原因の場合
長い間の排便時の怒責(どせき:きばる事)習慣や便秘、長時間の座位などの肛門に対する生活上の無理が重なる事によって、肛門内の平滑筋・血管・支持組織などの弾力組織(クッション組織)が弛んで肛門外に逸脱(いつだつ:出て来る事)する様になった状態。遺伝もある程度関与すると言われています。主にヨーロッパで最近言われ始めた新しい理論です。
今のところ、以上2つの成因が考えられていますが、そのどちらかは患者さんによって異なりますので、その成因に応じた治療法を選択する必要があります。中には、2つの成因が重なっておこっている場合もあります。

内痔核の進行度分類
第1度
 出血が主な症状で
肛門の外に痔核が
脱出しない    
  →
保存的療法
第2度
 排便時に痔核が脱
出するが、排便後自
然に元に戻る   
保存的療法
第3度
 脱出後、手などで
痔核を押し込まない
と戻らない    
  →
手術療法
第4度
 排便と無関係に常
時痔核が脱出してい
る(
脱肛とも言
う) →
手術療法
※ただし、第1度および第2度の場合でも保存的療法で軽快しない時は手術が必要な場合もあります。

内痔核の保存的療法(内痔核1度・2度)
痛み・出血・腫れ・痒みなどの症状が出たら、まず以下の原則を守ってみます。 これだけで軽い痔は治ってしまう場合もあります。
@長時間座る姿勢や立ちっ放しの仕事を避け、寝た状態で安静にする
A入浴して温める。特に患部を冷さない様に気をつける
Bアルコール・刺激物(唐辛子・ワサビなど)の禁止
C禁煙(タバコは患部の血の巡りを悪くする)
D便秘・下痢しない様に気をつける
肛門がはれたと思ったらまずは体を休める
それでも軽快しない場合には以下の方法を加えます。どの方法を選択するかは患者さんの希望と医師の判断で決めます。
1)坐剤・軟膏の使用。内服薬(消炎剤(腫れ止め)・漢方薬)の服用。
           
2)冷却療法
ポスクールという商品名の凍結した冷却剤を肛門内に5分間挿入して患部を冷却する方法。一見、逆効果の様に思えますが1日1〜2回、1〜2週間使用する事によってしだいに肛門周囲の微小循環(血の巡り)を促進させて痔核を縮小させます。リウマチの冷却療法と考え方は一緒です。
3)硬化療法
痔核内に注射して硬化(固める)させる事によって出血・脱出を抑える方法です。  ただし、根治的な方法ではなく姑息的な手段ですから、その適応は、
@)内痔核の手術適応外(1度・2度)で出血の激しい場合
A)合併症のために手術できない場合
等です。 現在、以下の2種類の方法があります。

1 PAO法
5%フェノール・アーモンドオイル(商品名『パオスクレー』)を痔核内に5〜10ml注射して固めます。注射時の痛みは無く外来でできますので入院の必要はありません。通常、2〜3週間間隔を空けて数箇所(数回)注射します。
     


2 ジオン法
中国で開発された硬化療法薬「消痔霊」の成分を分析し、日本で合成され、 2005年6月から使用許可が下りた新しい注射薬。主成分は硫酸アンモニウムカリウム・タンニン酸で、商品名は『ジオン』と言います。 主に脱出痔核に効果がありますが、注射方法に少しテクニックが必要なため、認定を受けた医師のみに対して使用が許可されおり、当院も認定施設です。 ただし、厚労省から原則として腰椎麻酔(下半身麻酔)で行う様に指導されていますので、2〜3日の入院が必要です。 軽度の場合は入院せずに外来で注射する場合もあります。
    
4)結紮療法
ゴム輪で痔核を結紮(縛る)する事によって腐らせて治します。ただし、1回で全部の痔核を結紮する事は無理なので、痔核の大きさ・数などにより数回に分けて行う必要があります。外来でできますので入院の必要はありません。

ゴム輪結紮器の中に、いぼを 引っ張り込み、先端についたゴム輪をいぼの根元にかける。 いぼは徐々に壊死していき、いずれ脱落する。

内痔核の手術療法(内痔核3度・4度)
      術前          術後
        


1 痔核を切除する方法
 結紮切除術を原則としますが、以下の最新の手術器機の登場によって、術後の腫れ・痛みが一昔前に比べて随分と軽減しており、”痛くない痔の手
術”に近付きつつあります。麻酔は局所麻酔か又は腰椎麻酔(下半身麻酔)で行います。全身麻酔ではしません。
結紮切除術
痔核の部分のみを紡錘型に切除し、痔核に流入する動脈を結紮します。結紮には合成吸収糸という10日〜2週間で自然に脱落する特殊な糸を使用しますから、抜糸の必要はありません。切除範囲・切除個数は痔核の個数・程度に応じて変わりますから、人によって千差万別です。大体は3〜4か所切除する場合が多いですが、7〜8か所切除しないといけない場合もあります。退院後は1週間に1回の通院が必要で、退院から1〜2か月で完治します。
2)超音波メス
1秒間に5万5千回という超音波振動で痔核を焼き切る方法。1994年に腹腔鏡手術の肝切除用にアメリカで開発された高価な装置で、先端のブレードで痔核を挟み、摩擦熱で組織の蛋白質を変性させ、切除と凝固・止血を同時に行います。出血が少なく手術時間が短い上、80度の低温なので組織が炭化せず、術後の痛みや出血も少なくキズの回復も早いのが特長です。
3)炭酸ガスレーザーメス
炭酸ガスレーザービームの照射により痔核を”蒸散"させながら焼き切ります。レーザービームで切除と凝固を同時に行いながら病変部のみをシャープに切れるのが特長。さらに熱の深達度が浅いため、術後の腫れ・痛みが少ない。


2 痔核を熱凝固させて固める方法
半導体レーザー
痔核内に特殊な色素を注入し、これに805nmのレーザー光を照射する事により病変部のみ凝固して痔核を消退させる事ができます。麻酔は局所麻酔か又は腰椎麻酔(下半身麻酔)で行います。
@色素を痔核に注入  Aレーザーを照射
   
      術前         術後
                       ●半導体レーザー


3 直腸・肛門の弛んだ粘膜を吊り上げ切除して痔核を消退させる方法
PPH手術(Procedure for Prolapse andHemorrhoid :直腸・肛門粘膜環状切除術)
「内痔核の成因」のところでお話した「Loose cushion説」、つまり「長い間の排便時の怒責(きばる事)習慣や便秘、長時間の座位などの肛門に対する生活上の無理が重なる事によって(遺伝もある程度関与しますが)、元からある肛門内の平滑筋・血管・支持組織などの弾力組織(クッション)が弛んで肛門外に逸脱するようになった状態」とする新しい解釈にのっとって、イタリアのロンゴ博士が1993年にPPH手術という画期的な手術方法並びに器具を考案し、現在欧米で広く行われています。それは、直腸・肛門粘膜を環状に切除する事によって弛んで逸脱する弾力組織(クッション)を上に引き上げて、排便時に逸脱しない様にする手術法です。日本では1999年に初めて導入され、以後急速に広まりつつありますが、器機操作にテクニックを要するためどこの病院でもという訳にはいきません。日本全国で約80か所の専門病院で手術可能で、当院もそのうちの1施設に入っており、2001年より手術を開始してすでに400例以上の県東部では最多の症例を経験しています。
 以上、内痔核の最先端の手術器機を紹介しましたが、全て当院で使用可能です。ただし、どの器機を組み合わせて手術するかは患者さんの痔の状態に合わせてこちらで選択し、最適の方法で手術します。

 
外痔核とは?
肛門の出口付近にある粘膜下の静脈が、下痢・便秘、長時間の座位、お尻の冷え、アルコール、刺激物(唐辛子、サワビなど)などの刺激によって破裂し、内出血を起こして血栓(血の塊)を形成したものです。
外痔核の治療   
治療の原則はとにかく患部の安静。押し込んでも入りませんからさわらない様に。無理に押し込んでいるとよけいに腫れます。上にあげた原因と考えられる事を避けて、1〜2週間坐剤と内服をきちんと服用すれば、しだいに腫れが引き、痛みも楽になって、やがては自然に消失して何もなくなる場合がほとんどです。 まれに、中の血栓(血の塊)が消失しても、外の今まで血栓を覆っていた余った皮が残る事があります。これを”皮垂(ひすい)”と言いますが、放っておいても構いません。ただし、余計な皮が有る事によって、排便後拭き取りにくかったり、不快な場合は切除が必要です。又、外痔核自体も1〜2か月間きちんと治療しても消失しない場合、これ以上は薬では無理ですから手術が必要という事になります。時には、外痔核が破れて出血する場合もありますが、気にする事はありません。中の血の塊が少しずつ出て来るだけの事ですから、ある程度出血したら自然に止まります。下着が汚れる様であれば、ガーゼでも生理帯でも挟んでおけば心配は要りません。

  
裂肛とは?
便秘・下痢によって肛門粘膜が切れた状態です。基本的にはお通じの管理さえうまくすれば自然に治る病気です。ただし、以下の状態の時には手術が必要です。
1)裂肛が慢性化してしまって、治りにくく深い肛門潰瘍になっている場合この状態には多くの場合、肛門外に”見張りイボ”と呼ばれる肛門ポリ(Sentinel polyp)を伴っている事があります。肛門潰瘍を切除して治りやすい新しいキズにしないと完治しません。 
2)同じく裂肛が慢性化してしまって、肛門狭窄(肛門が狭くなる事)を起こしている場合足でも腕でも、体に受けたキズは必ず収縮して治ります。肛門も同じで、裂肛になるごとに切れては治り、切れては治りしていく内に、しだいに肛門が狭くなって行きます。そうなると、狭いからよけいに切れやすくなるといった悪循環に陥ります。ひどい人になると、小指はおろか、鉛筆でも入りにくい程の狭い肛門になっている人もいます。こうなってしまうと、肛門を拡げて普通のサイズ(指2本入るのが普通の肛門の大きさ)にしてあげて、少々硬くて太い便が出ても切れない肛門に形成してあげないと治りません。 

痔瘻とは?
肛門腺(お尻の穴の外側から2〜3p奥にある細い管で、誰にでもある)からバイ菌(大腸菌)が入って化膿し、膿(ウミ)が溜まって痛み・発熱などの症状が出た状態を肛門周囲膿瘍(のうよう)と言います。この状態が慢性化すると皮下・筋肉・脂肪組織などを貫いてトンネルが出来ます。これが痔瘻です。手術しないと治りません。
放置しておくとどうなるかと言うと、最初は1本のトンネルがどんどんバイパスを作って行き2本、3本と枝別れします。そうなると入院期間が倍、3倍になる事もあります、手術も複雑になり、括約筋へのダメージも大きくなります。なるべく早い内に手術する事をお勧めします。最悪の場合、複雑痔瘻を何年も放置した場合に「痔瘻癌」という癌になる事もあり、そうなると人工肛門です。 
 肛門周囲膿瘍         痔瘻
      


痔瘻の手術療法
@切開開放術(lay open法)
皮下痔瘻や低位筋間痔瘻などの様に浅い痔瘻に対して行う術式で、肛門括約筋もほとんど切る事は有りません。もしも括約筋の一部を切除する事になっても、ごく浅い部分をわずかに切るだけですから、障害は残りません。ましてや術後に垂れ流しになるとか、人工肛門になる事は有りません。 
A括約筋温存手術(coring out法)

痔瘻のトンネルの部分のみを繰り抜く様に切除し、括約筋は切りません。肛門の中側は便が入らない様に縫って閉じますが、外側は縫わずに開放しておくのが普通です。 
Bシートン(seton)法
複雑痔瘻が肛門括約筋を大きく貫いて何か所も枝分かれしている様な場合は特別な方法をとります。こういう場合はどうしても括約筋を傷付けざるを得ない事が多いため、一度に痔瘻を全部切除せず、括約筋を貫く部分のみを残してその中に特殊なゴムひもを通します。ゴムひもが縮もうとする力を利用して徐々に切りながら治り…を繰返す事により、括約筋を弛ませないで切除できるのです。ただし、時間がかかります。数ヶ月から1年位かかる場合もあります。その間は1か月に1回位外来受診をしてもらって、ゴムが弛んだ分だけ締めていきます。時間はかかりますが、確実な方法です。

 
直腸脱とは?
直腸の粘膜と筋層が一緒に肛門外に脱出する状態を言います。子供にもごく稀に見られますが、ほとんどは高齢者で、加齢と共に肛門括約筋が弛緩(しかん:ゆるむ事)する事により直腸が脱出して来ます。この患者さんは排便時にキバる習慣の人が多く、それを何十年も繰り返しているとしだいに直腸が下がって来るのです。「脱肛」とよく混同されがちですが、「脱肛」とは内痔核の第4度の別名であって直腸脱とは全く別の病気です。脱出する直腸の長さは3〜4cmからひどい人になると20〜30p脱出する場合もあります。肛門括約筋の弛緩の程度にも個人差が有り、ひどい人は握り拳がスッポリ入ってしまう位にユルユルの人もいます。子供の場合は自然治癒が有り得ますが、大人の場合は手術しないと完全には治りません。
      術前       術後
     


直腸脱の手術法
直腸脱の手術法には色々有りますが、高齢者の場合、開腹術(お腹を大きく開けて弛んだ腸を引き上げて固定する方法)をすると体に対する侵襲(ダメージ)が大きく、術後に腸の癒着による腸閉塞などの合併症を起こす可能性も有りますので、当院では次の手術方法をお勧めしています。

 
1)Gant-三輪法(直腸脱絞り込み縫縮術)
脱出する直腸粘膜及び筋層に針・糸を掛けて大豆大のコブを作り、それを何十個(普通は20〜30個)も作る事により、しだいに直腸が絞り込まれて短くなり、肛門内に入る様になります。縫う糸は合成吸収糸と呼ばれる自然に溶ける糸ですので、抜糸の必要はありません。2〜3週間すると自然に脱落します。糸が脱落しても炎症反応によりコブはそのままです。麻酔は腰椎麻酔(下半身麻酔)か局所麻酔で行います。手術自体が及ぼす負担はごく軽微なので、術後の痛みもほとんど無く良い手術方法ですが、欠点があります。それは、再発率が20〜30%あるという事です。手術後も同じ様にキバる習慣を続けていると4〜5年後に再発も有り得ます。ただし、再発しても以前と同じではなく、前より小さくなっている事が多いのですが、再手術が必要です。この手術の良い所は、再発してもやり直しが効くという事です。これに比べて開腹術の場合は再手術は体に非常な負担が掛かりますし、腸の癒着の問題で再発すればする程手術も難しくなりますのでやり直しは効きません。 

2)Thiersch法(肛門括約筋形成術)
ユルユルに弛緩した肛門括約筋を形成して、正常のサイズの肛門に戻す手術です。そのために、内肛門括約筋と外肛門括約筋の間にシリコンチューブを埋没(埋め込む事)して肛門をグルッと取り囲む様に締めます。出来上がりの肛門サイズはその人その人で違い、便秘がちの人は少しゆる目に、普段から便がゆるい人は少しきつ目にします。シリコンチューブの代わりにナイロン糸を使ったり、足の筋肉の腱膜を使ったりする病院もありますが、当院では今までに色々試して来て、シリコンチューブが今のところ最適と思われます。シリコンチューブは生体になじみ易く、長期間埋没していても害が無く、おまけにある程度伸び縮みしますので最も本来の肛門に近い働きをする素材といえます。ただし、欠点もあります。シリコンチューブがいかに体に優しい素材といっても、あくまでも体にとっては異物ですから、一旦感染が起きて化膿すると、それを取り出さない限り化膿は治りません。特に、糖尿病などの合併症を持つ人や、キズが化膿し易い人は要注意です。感染を起こさないためには、下痢・便秘をしない事がもっとも大切です。化膿してチューブを取り出すと、又ユルユルになりますが、化膿が治まると又再手術して埋没する事ができます。シリコンチューブは化膿しない限り、一生埋没していても構いません。
以上の2通りの手術をお勧めしていますが、どちらか1つの手術だけで済む場合もありますし、両方必要な場合もあります。 

原因は以下のいずれかが考えられます。
1)肛門内に内痔核・外痔核・裂肛・痔瘻などの痔があって、それがもとで炎症を起こして、痒みが出る場合
2)肛門括約筋という肛門を閉める筋肉が弛んでしまっていて(原因は加齢・出産・長期間の排便時のキバる習慣など)、肛門の締りが悪くなり、便汁が知らぬ間に漏れて、それが肛門周囲の皮膚をタダれさせる場合
3)日本人特有の清潔好きが災いして、排便の後にウォシュレットなどの肛門洗浄器を多用しすぎることにより、肛門周囲の皮脂(油分)が抜けてパサパサの乾燥肌になって皮膚炎を起こした状態。家庭の主婦が食器洗いで手が荒れて痒くなるのと同じ現象。痒いから掻けばよけいに皮膚が荒れて痒くなる悪循環に陥るのは「アトピー性皮膚炎」と同じ理屈なので掻かない様に。排便の後は軽く洗浄し、紙で軽く押えて水気を取るだけにする。紙でこすって拭くとそれだけでタダれる。
4)アトピー性皮膚炎・慢性湿疹などの皮膚疾患を元から持っている人は、おシリもタダれ易い。
5)市販の洗浄綿などの化学薬品で皮膚がタダれている場合
6)肌に合わない市販の軟膏や、ワケのわからない他人からもらった軟膏で皮膚がタダれた場合
7)神経的なもの。以上のいずれでもないのに痒くて仕方がない場合